大阪地方裁判所 昭和44年(ワ)1319号 判決 1969年12月26日
原告
松岡喩
ほか六名
被告
かね銀青果株式会社
ほか一名
主文
一、被告らは各自
原告松岡喩に対し金三六万一、九六四円、原告松岡ハルヱに対し金一一一万〇、六五八円、原告松岡利忠、同淳子、同広美、同匡一、同高久靖子に対しそれぞれ金一二万円および右各金員(但ハルヱに対する金員中一八万円を除く)に対する被告かね銀青果株式会社は、昭和四四年四月四日から、被告加藤友良は同月六日から、各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
一、原告らのその余の請求を棄却する。
一、訴訟費用はこれを一〇分し、その八を原告らの、その余を被告らの負担とする。
一、この判決の第一項は仮りに執行することができる。
一、但し、被告において原告喩に対し金三〇万円、同ハルヱに対し金九〇万円、その余の原告らに対し各金一〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。
事実
第一、申立
(原告ら)
被告らは各自、原告松岡喩に対し金四六八万一、八三五円、原告松岡ハルヱに対し金七〇一万四、五八三円、原告松岡利忠、同淳子、同広美、同匡一、及び原告高久靖子に対し各金三〇万円、並びに右各金員(原告ハルヱに対する金員中金一〇〇万円を除く)に対する、被告かね銀青果株式会社は昭和四四年四月四日、被告加藤友良は同月六日から、各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言。
(被告ら)
原告らの請求を棄却する
訴訟費用は原告らの負担とする
との判決。
第二、請求原因
一、事故
1 日時 昭和四二年一月三〇日午後九時三五分頃
2 場所 大阪市大淀区天神橋筋九丁目八番地先路上
3 加害車 普通貨物自動車(大阪四ぬ四〇七二号)
右運転者 被告加藤友良
4 被害者 原告松岡喩
5 事故の態様 足踏自転車に乗つて、道路左端を北進していた原告松岡喩が、進路上に駐車していた車両を避けて、一時、進路を右方へ転じたところ、その右後方を北進してきた加害車が、被害自転車の後部に追突し、原告喩はその場に転倒させられた。
6 傷害 頭部外傷第三型の傷害
二、被告らの責任
1 被告会社は、本件加害車を所有し、これを運行の用に供していたので、自賠法三条により、原告らの後記損害を賠償する義務がある。
2 被告加藤友良は加害車の運転について、次のような過失があるので、民法七〇九条により原告らの後記損害を賠償する義務がある。
すなわち、同人は、本件道路を、酒気を帯びながら、時速四五キロの速さで北進中、左前方約二二メートルの地点に、道路左端に駐車している車両と、そのうしろから同じく北進中の被害自転車を発見したのであるが、かかる場合には、右自転車において右駐車車両を避けて右へ進路を変更することが予測されるので、自転車の動静に注意して減速徐行し、警音器により警告を与え、その反応を見極めたうえ、仮りに、自転車が右へ進路を変更した場合にもこれとの接触を避け得るだけの十分な間隔をとつて、その右側を追越すべき注意義務があるのにこれを怠り、警笛を鳴らさず、前方不注視のまま慢然加速して進行した過失により、被害自転車が、駐車車両を避けて、右へ進路を変更してくるのを、その後方七メートルの地点に至つて初めて発見したものの、すでにこれを避けることができず、加害車を被害自転車の後部に衝突せしめるに至つたものである。
三、損害
本件事故により原告らは次のごとき損害を蒙つた。
1 原告喩の病状とその余の原告らの介護等
イ 原告喩は前記受傷により、約一〇日間は全く意識が無く、極度に生命が危ぶまれたが、あらゆる手当を尽した結果、辛うじて一命を取り留めた。その後引き続き、北野病院、放出病院、行岡外科病院で約七ケ月間入院治療を受け、その後は自宅で寝たきりの状態で療養を続けている。
ロ 右外傷による後遺症として、喩は四肢の麻痺を来し、尿を失禁し、かつ知能、記憶力にも著るしい障害を受けて、全くの廃人となつてしまつた。そして、昭和四三年九月一九日には、大阪家庭裁判所において、禁治産の宣告を受けるに至つた。
ハ 原告ハルヱは喩の妻、その他の原告は喩の子であるが、本件事故による喩の危篤状態、その後の長い入院生活、現在から永続する療養生活等に対する、同人らの心労は言葉に表わせない程である。これは結婚している長女高久靖子においても同様であり、特に長男利忠においては、昭和四二年二月初旬には苦学して留学中のハンブルグから一時帰国を余儀なくされた。しかし、このような家族の心労にも拘らず、喩の後遺症は恐ろしく、家族と言葉さえ通ぜず、又一時も目を離すこともできない。
尿失禁のため、始終おむつをあてておかなければならず、夜具も常に新しく取り替えなければならない。夜中も大きな声を出して呼ぶので、同居している妻ハルヱをはじめ、淳子、広美、匡一はまともに睡眠もとれず、家族全体が、恐怖状態にある。そして、このような状態が喩の一生続くのである。
2 原告喩の逸失利益
イ 喩の職業 大阪機船株式会社ボイラー係
ロ 当時の月収 一ケ月平均四万二、三九一円(その生活に要する費用は一ケ月一万円)
ハ 稼働可能期間 一二年(事故当時五八歳、ボイラー係としての労働はそれほどの肉体労働ではなく、高齢者にも十分可能であつた。)
ニ 喪失率 一〇〇パーセント(前記後遺症)
ホ 右の総現価 年ごとホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると三五八万一、八三五円
3 原告ハルヱの支払つたその他の損害
イ 交通費ないし通信費(長男帰国費用を含む)
四二万八、六二〇円
ロ 医療費(内金)
二万三、五三二円
ハ 医療関係雑費
一二万九、一九五円
4 原告ハルヱの支払うべき将来の附添婦代
イ 附添婦の必要性 原告喩は常に介護を要するが、一方原告ハルヱは生活維持のためにマッサージ師として外で働かなければならない。
ロ その期間 喩の平均余命及びハルヱの平均余命(現在五三歳)ないしマッサージとしての就労可能期間の範囲内で少くとも一〇年間
ハ 附添婦費用 日額一、二〇〇円
ニ 費用の総額 年ごとホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると三四三万二、一九六円。
( )
5 原告らの精神的損害
原告喩 三〇〇万円
原告ハルヱ 一〇〇万円
その余の原告ら各三〇万円
右算定の基礎事実は前記1のとおりである。
6 原告ハルヱの支払うべき弁護士費用
四、損害填補及び本訴請求
1 原告喩は、前記損害に対して、自賠責保険金一七〇万円の填補を受けており、さらにその損害賠償請求権の一部をもつて、被告会社からの借入金二〇万円と、対当額において相殺する。
2 右金額を除き、原告らは本訴において、次の金員、ならびに、これらに対する(原告ハルヱの請求中、弁護士費用一〇〇万円(前第三項5)に対する分を除く)、本件各損害発生の後である、被告会社については昭和四四年四月四日、被告加藤については同月六日(いずれも訴状送達の翌日)から、各支払ずみに至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
原告喩 前第三項2、5の合計額より右一九〇万円を除いた残額 四六八万一、八三五円
原告ハルヱ前第三項3、4、5、6の合計額(但、違算) 七〇一万四、五八三円
その他の原告 前第三項6の金員各三〇万円
第三、被告らの答弁
一、請求原因第一項(事故の発生)は認める。(但、事故態様の詳細を除く)
二、同第二項(被告会社並びに被告加藤の責任)は認める。(但、過失の態様の詳細は争う)
三、同第三項(損害)中、原告喩の年齢、職業、各病院入院の事実、禁治産宣告を受けたこと、及び原告らの身分関係は認めるが、その余の事実は争う。
慰藉料の算定については、後述のごとく、被告らにおいて喩の医療費を支払い、原告ら家族の生活費を貸与する等できるかぎりの誠意をつくしてきた事が斟酌さるべきである。
将来の附添婦代については、原告方は家族多数で、子供達もすでに皆成長しており、交替で喩の看病にあたりうるので、その必要性は認められない。
第四、抗弁
一、過失相殺の主張
本件事故の現場は車道幅員一八メートルの広い幹線道路で、中央に市電の軌道が設置されていて、交通量は甚だひんぱんな場所である。又現場附近で道路は左にカーブしており、かつかなりの上り坂になつていた。加害車は、右市電北行軌道の外側レールをまたいで、ボデー左側と、歩道縁石との間に約四、五メートルの間隔をあけて、道路中央やや左寄りを北進していた。一方、加害車の進路左前方に、車道左端に接着して小型スポーツカー一台が駐車していたが、加害車がこれと並行する時点でも、両車の間にはなお三・三メートルの間隔が残されていた。
被告加藤は、道路左端を先行する被害自転車を早くから発見していたのであるが、右スポーツカー附近で自転車を追越すようになるとしても、右のようになお十分な間隔があるので、そのまま北進したところ、被害自転車が突然何の合図もなしに道路中央寄りにまで進出してきたため、急遽急停車の措置を講じたが及ばず、これと衝突するに至つたものである。従つて、本件事故については原告喩にも、後方の安全を確認せず、加害車が接近しているのに、突然ハンドルを右に切つて道路中央部分に進出した点で重大な過失があり、この点が損害額の算定について斟酌さるべきである。
二、一部弁済ならびに損害填補の主張
被告会社は、原告らが自陳する一七〇万円の他、本件事故について、次のごとき金員総計一四四万五、〇九〇円を支出している。
1 喩の治療費、入院費、家政婦代、附添ふとん代等として、直接病院等に支払つた費用 計一〇四万五、〇九〇円
2 本件損害の内入れとして原告喩に貸与した金員 計四〇万円
しかして、1の金員のうち、過失相殺の結果、原告喩が自ら負担すべきであるとされる金額、ならびに2の金員は、いずれも本訴請求の損害に充当さるべきである。
第五、被告らの答弁ならびに再抗弁
一、抗弁第一項(過失相殺)は争う。
二、同第二項(損害填補)の事実は認めるが、借入金四〇万円のうち、二〇万円は、当初受領した自賠責保険金のうちから返済している。従つて、本訴損害に充当されるのは原告主張どおり二〇万円にすぎない。
証拠〔略〕
理由
一、請求原因第一項(本件事故の発生及び事故の概要)並びに同第二項(被告会社および被告加藤の責任)については、当事者間に争いがない。(但し被告加藤の過失の詳細を除く)
二、以下、請求原因第三項(損害)について判断する。
1 原告喩の傷害ならびに後遺症の程度について
〔証拠略〕を総合すれば、喩は本件事故により頭部外傷第三型の傷害を受け(争いない)、行岡病院で応急手当を受けたのち、危篤状態のまま北野病院に搬送され、諸手当の結果二月六日より僅かずつ意識を回復し、その後同病院に四月二四、五日迄入院し、ついで放出病院を経て行岡病院に転院し、同年七月二六日頃迄入院治療を受けていたが、これ以上手当の方法も無いということで退院し、その後自宅療養を続けていること、右退院当時、病状にやや好転のきざしが見え、物に掴まつての歩行や、簡単な応答程度のことはできるようになつていたが、結局その時も記憶の錯乱がみられ妻や子を識別することもできず、二桁の計算さえ不能で、視力握力ともに著るしく低下し、尿失禁が見られたところ、後遺症の状態は、その後さらに悪化し、翌年九月の大阪市立大学の諸検査の結果によつても、二、三歳程度の知能しかなく、もはやこれ以上の治療は不可能で、精神病院に収容する他ないと診断され、昭和四四年九月当時には、自宅に寝た切りの状態で、大小便もたれ流しとなつていること、昭和四三年九月一九日には、心神喪失の常況にあるものとして、大阪家庭裁判所で禁治産宣告を受けていることがそれぞれ認められ、反対の証拠は無い。
2 喩の逸失利益(請求原因損害の2)について
喩は、本件事故当時五八歳で、大阪機船株式会社に勤務していたことは当事者間に争いがないところ、〔証拠略〕を総合すれば、喩は約七、八年来、右会社に日雇いのボイラー室作業員として雇傭され、その当時、基本日給一四〇〇円を得ていたこと、残業手当などを入れると事故前四ケ月間の手取給与額の平均は、一ケ月四万二三九一円強であつたこと、同人は健康で仕事を休むようなことも無く、かつボイラー室の雑役作業はさして重労働ではなく、更に会社では雑役作業員に対して年齢に応じた職場を用意していたことがそれぞれ認められるので、結局、本件事故が無ければ、喩は、控え目に見ても、この時より八年間は、月あたり四万二〇〇〇円の収入を得ることが出来たものと推認される。
しかして、前項認定のごとく、喩は将来ともにその労働能力のすべてを失つたので、その喪失利益の現価を、ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると三三〇万円となる。(ただし、以上の各推定は、その性質上大まかな推論の上にたたざるを得ないことを考慮すれば、これらを基礎に算術的計算をして得た数値のうち、上三桁以下の数値は、本件証拠に対する関係でその必然性ないし有意性を有しないから、これを切捨てる。又、原告は生活費を控除しているが、死亡した場合と異り、その必要はないと考えられる。)
算式
3 ハルヱの雑損害(損害の3)について
〔証拠略〕を総合すれば、ハルヱは夫喩の前記受傷により次のような費用を支出し、同額の損害を受けたものと認められる。
イ 通院交通費、長男帰国費用及び通信費 四二万八、六二〇円
(ただし、長男帰国費用中、復路については、船賃のかぎりでのみ、本件事故との相当因果関係を認める。)
ロ 医療費(内金) 二万三、五三二円
ハ その他病人用諸雑貨の購入費用 九万八、九四五円
(ただし、小型テレビの購入費用三万二、五〇〇円 フランスベッドの購入費用二万八〇〇〇円については、その半額の範囲でのみ、本件事故との相当因果関係を認める。)
4 ハルヱの支出すべき将来の附添婦代(損害の4)について
前認定の事実によれば、喩は心神喪失の常況にあり、常に介護を要するものと認められるが、原告ハルヱ本人尋問の結果によれば、喩の退院以後は家族において交互に同人の世話をし、特に附添婦を雇つた事実も無いこと、ハルヱ自身も本件事故後病気勝で、マッサージ師として稼働することもできないまま主に喩の介護にあたつていることがうかがわれ、今後ハルヱが現実に附添婦の費用を負担するに至るものとは考えられず、他にこれを証するに足る証拠もない。又、本件事故により、家族の者が喩の介護を余儀なくされている事情についても、その期間は不明確なものといわざるを得ないから、すべて慰藉料算定の基礎事情として考慮するのが、相当である。
5 慰藉料(損害の1)
前項1、4認定の諸事実ならびに原告ハルヱ本人尋問の結果を総合すれば、慰藉料算定に関する原告らの主張に沿つた諸事実が認められ、その他諸般の事情を考慮すると、原告らの精神的損害に対する慰藉料として次の金額が相当である。
原告喩 一五〇万円
原告ハルヱ 一〇〇万円
その余の原告 各二〇万円
6 ハルヱの負担した弁護士費用について
〔証拠略〕を総合すると、原告主張の事実が認められるが、本件事案等諸般の事情を勘案すると、本件事故による損害として、被告らにおいて負担すべきものは三〇万円と認めるのが相当である。
三、過失相殺の抗弁について
1 本件事故の状況
〔証拠略〕を総合すると、以下の各事実が認められ、これに反する証拠は採用し難い。
イ 本件事故の現場は、車道部分の幅員一八メートルで、その中央部分に大阪市市電の軌道敷が設置され、車道の両側には幅員各五メートルの歩道がある、アスファルト舗装道路である。右道路の制限速度は時速四〇キロで、南から北へややのぼり坂になつており、かつ事故現場の北側にカーブしていた。
ロ 被告加藤は加害車を運転して、右道路左側を中心寄りに、右車輪を軌道敷の耳の部分に乗せ、歩道との間に約四・五メートルの間隔をあけて、時速四〇ないし四五キロの速度で北進中、衝突地点の約二〇〇メートル手前で、車道左端を北進する被害自転車と、更に前方の道路左端に駐車している小型スポーツカー一台を発見した。
この時右道路の交通は相当瀕繁で、幾台かの北進車が、加害車の左側を追抜いてゆく状態であつた。
被告加藤は、右被害自転車に特に気を留めることもなく、むしろ、対向車線を中央線よりに南進する車両に注意しながら、速度を時速約五〇キロに加速して進行したところ、右追抜き車のとぎれたあと、突然、右駐車中のスポーツカーのうしろ附近から、被害自転車が大きく斜め右側に進出してくるのを発見し、急ブレーキをかけたが及ばず、右スポーツカーの横あたりで、被害自転車と衝突した。
ハ 加害車のスリップ痕は、右側が、九・二メートル、左側が七・四メートル程あり、右側のものは軌道敷の耳の部分上に、左側のものは歩道縁石より四・五メートル程の位置に認められ、一方、加害車の前部ボンネット左寄りに被害自転車との衝突痕が認められた。
2 被害者喩の過失
右認定の事実によれば、被害者喩は道路左側端を進行中、前方に駐車していたスポーツカーを避けるため、自分の右側を追越してゆく車両の途切れた際に、十分後方の安全を確認せぬままに、道路中央部分上に進出した過失が認められる。しかして、前項ハの事実によれば、両車は歩道縁石より約五メートル弱の道路中央寄りで衝突したものと推認されること、右道路は幹線道路で、この時もかなりの交通量があり、制限速度を越えて走行する車両が多かつたと認められること等を考慮すると、右被害者の過失の程度は必ずしも軽微とは言い難い。
一方、被告加藤には、前記認定事実より明らかなごとく、前方不注視、制限速度違反の過失が認められる他、〔証拠略〕によれば、同人は、本件事故時点での体内のアルコール保有程度こそ呼気一リットルにつき〇、二五ミリグラムに達してはいなかつたが、その二時間程前にビール(大瓶)二本を飲んで加害車の運転に及んだ事実も認められる。これらの事実ならびに両車の車種等諸般の事情を勘案して、過失相殺として、原告らの前記損害の四割を減ずるのが相当である。
四、損害の一部弁済等について
1 被告会社が喩の治療費、附添婦代等としてすでに一〇四万五〇九〇円を支出していることは当事者間に争いがないところ、前過失相殺に関する判旨によれば、この四割にあたる四一万八〇三六円は原告喩が自ら負担すべきものである。
2 右の他、被告会社が、原告喩に対し、損害賠償金の内入れとして、生活費等合計四〇万円の金員を貸与したことは当事者間に争いがない。
原告は、そのうち二〇万円はすでに返済した旨を主張し、原告ハルヱはこれに符合する供述をしているけれども、被告会社代表者尋問の結果に照らして、なおにはかにこれを採用し難く、他にこれを認めるに足る証拠はない。
3 原告喩に対し自賠責保険金一七〇万円が支払われていることは、当事者間に争いがない。
しかして、以上の合計額二五一万八〇三六円は、本件喩の損害に充当され、これより控除さるべきものと認められる。
五、結論
以上に判示したところを総合すると、原告らが被告らに対して賠償を請求し得る金額は、それぞれ次のとおりとなる。
原告喩 前第二項(損害)2、5、の合計額の六割より、右二五一万八〇三六円を控除した残額 三六万一九六四円
原告ハルヱ 前第二項の3(イ、ロ、ハ)、5、6、の合計額の合計額の六割 一一一万〇六五八円(一円未満切捨て)
その他の原告前第二項の5の六割
よつて、原告らの請求は、右金額、並びに一二万円(但原告ハルヱに対する金員中、前第二項の6の損害三〇万円の六割に相当する一八万円を除く)に対する、本件各損害発生の後である被告会社については昭和四四年四月四日、被告加藤については同月六日から、各支払ずみに至るまでの民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度でこれを認容し、その余の請求はこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行ならびに同免脱の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 本井巽 中村行雄 小田耕治)